この記事でわかること
- 一般会計・特別会計・企業会計の違いと、それぞれが示す財政の姿
- 長岡市の貸借対照表・行政コスト計算書を3年分(令和4〜6年度)で比較
- 大きく動いた項目(退職手当引当金・移転費用・人件費)がなぜ変化したか
- 新潟県内3市(長岡・新潟・上越)の中で長岡市がどの位置にいるか
この記事を読む前に
長岡市が毎年公表する「財務書類(統一的な基準)」のデータをもとに解説します。企業でいう決算書(バランスシート・損益計算書・キャッシュフロー計算書)に相当するものです。
数字の読み方
- 単位は特に断りのない限り億円
- R4・R5・R6 = 令和4・5・6年度(2022・2023・2024年度)
- ▲ = マイナス(減少) プラスと▲が良い・悪いかは指標による
- 専門用語は初出時に (=〇〇) で補足しています
目次
- 会計区分の説明:「一般会計等」と「全体」は何が違うか
- 貸借対照表:資産・借金・純資産の3年推移
- 行政コスト計算書:市の「損益計算書」を読む
- 大きな変化の項目:なぜ動いたか
- 資金収支計算書:現金の動き
- 財務指標:新潟県内3市との比較
- まとめ:3年の数字が示す長岡市財政の実像
- 財政が抱える構造問題
- 解決策の検討:できることとできないことを分ける
0. 会計区分の説明:「一般会計等」と「全体」は何が違うか
財務書類には「一般会計等」と「全体」の2列があります。この違いを先に押さえておくと、数字の意味がはっきりします。
■ 3種類の会計とは
市の財政は「財布の種類」によって3つに分けて管理されています。
| 区分 | 含まれるもの | 例えると |
|---|---|---|
| 一般会計 | 市の基本的な行政サービス全般(教育・福祉・道路・消防等) | 家計でいう「生活費口座」 |
| 特別会計 | 特定事業ごとに一般会計から切り離した財布 | 「教育費口座」「医療費口座」など目的別 |
| 企業会計 | 独立採算を目指す事業(水道・下水道等) | 副業の財布(稼いで維持することが前提) |
長岡市の財務書類における「一般会計等」は、令和6年度より一般会計のみが対象です(令和5年度まで含まれていた診療所事業特別会計が一般会計に編入されたため)。「全体」はさらに国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険の特別会計と、下水道・水道・簡易水道の企業会計をすべて加えた数字です。
■ 一般会計等と全体の差(R6年度・単位:億円)
ポイント: 「全体」の資産が「一般会計等」より約2,021億円多い主因は下水道・水道・簡易水道のインフラ資産です。「一般会計等」だけ見ると、市が管理するインフラの実態の約4割が見えていません。
| 科目 | 一般会計等 | 全体 | 差額(特別会計+企業会計分) |
|---|---|---|---|
| 資産合計 | 5,523 | 7,544 | +2,021 |
| うちインフラ資産 | 2,220 | 4,076 | +1,856 |
| 負債合計 | 1,705 | 3,092 | +1,387 |
| 純資産(=資産-負債) | 3,818 | 4,453 | +635 |
| 経常費用(年間コスト) | 1,163 | 1,762 | +599 |
| 純行政コスト | 1,127 | 1,638 | +511 |
差額の大半は下水道事業・水道事業の管路・施設が占めます。下水道・水道は市全体のインフラ資産のうち約1,856億円を追加しており、それを賄うための地方債(企業債)も相応に存在します。一般市民が目にする下水道料金・水道料金は、この2,021億円規模の別財布から賄われています。
1. 貸借対照表:資産・借金・純資産の3年推移
ポイント: 純資産はR4→R6で3,758億円から3,818億円へ+60億円増加し、地方債は R5 をピーク(1,548億円)にR6で1,509億円へ減少転換した。一方で「借金の現在価値」を示す全体地方債残高も2,104億円→2,022億円と82億円減少しており、財政の自立度は着実に上昇している。
貸借対照表(バランスシート)= 「今この瞬間に、市が何を持っていて、何を借りているか」の一覧。
- 資産:道路・学校・現金など市が保有する財産
- 負債:将来返済しなければならない借金(地方債など)
- 純資産:資産から負債を引いた差額。過去の世代が積み上げた正味の財産
■ 貸借対照表3年推移(一般会計等・単位:億円)
| 科目 | R4 | R5 | R6 | R4→R6 変化 |
|---|---|---|---|---|
| 資産合計 | 5,471 | 5,526 | 5,523 | +52 |
| 有形固定資産等 | 4,900 | 4,940 | 4,940 | +40 |
| 事業用資産(庁舎・学校・公民館等) | 2,618 | 2,670 | 2,690 | +72 |
| インフラ資産(道路・橋・公園等) | 2,256 | 2,240 | 2,220 | ▲36 |
| 投資その他資産 | 385 | 393 | 399 | +14 |
| 流動資産(=1年以内に換金できる資産) | 186 | 193 | 184 | ▲2 |
| 現金預金 | 81 | 74 | 71 | ▲10 |
| 基金(財政調整・減債等) | — | — | 111 | — |
| 負債合計 | 1,713 | 1,740 | 1,705 | ▲8 |
| 地方債残高(固定+流動合計) | 1,533 | 1,548 | 1,509 | ▲24 |
| 退職手当引当金 | 154 | 160 | 163 | +9 |
| 賞与等引当金 | 13 | 15 | 16 | +3 |
| 純資産(=資産-負債) | 3,758 | 3,786 | 3,818 | +60 |
■ 全体会計(一般会計+特別会計+企業会計・単位:億円)
| 科目 | R4 | R5 | R6 | R4→R6 変化 |
|---|---|---|---|---|
| 資産合計 | 7,570 | 7,599 | 7,544 | ▲26 |
| 負債合計 | 3,198 | 3,186 | 3,092 | ▲106 |
| 地方債残高(1年内含む) | 2,104 | 2,092 | 2,022 | ▲82 |
| 純資産 | 4,372 | 4,413 | 4,453 | +81 |
全体ベースでも純資産は一貫して増加(+81億円)、地方債は減少(▲82億円)という同じ方向を示しています。
■ 注目変化①:純資産の増加ペースが「縮小から回復」
純資産はR4〜R6で合計60億円増加しました。ただし変化額を年ごとに見ると、R4年度に+58億円と大きく増えた後、R5年度は+28億円に縮小。R6年度は+32億円と小幅回復しています。
純資産が増える仕組みは「財源(税収+補助金)が純行政コストを上回る分が純資産に積み上がる」というものです。R5年度に縮小した理由は財源が1,118億円と前年比▲30億円に落ちたことです。COVID後の特別補助が縮小した影響が財源に出ています。R6年度は財源が1,150億円に回復(+32億円)したため、純資産増加幅も持ち直しています。
■ 注目変化②:地方債がR5ピークからR6で減少転換
一般会計等の地方債残高はR5に1,548億円(ピーク)まで増加した後、R6は1,509億円へ▲39億円の減少。全体でも2,022億円(▲82億円)と明確な減少トレンドに入りました。
地方債が増えたR5の主因は、投資活動支出が125億円と他年度より大きかったことです(R4=72億円、R6=81億円)。R5は施設整備・インフラ投資が活発な年度で、その資金調達として地方債の新規発行が増加しました。R6は発行額(118億円)に対して償還額(157億円)が上回り、借金の実質的な返済超過が続いています。
■ 注目変化③:流動基金(財政調整基金)の充実
流動資産に含まれる基金(流動)は R6年度末に111億円(財政調整基金88億円+減債基金22億円)が確保されています。これは有事や財源不足時の「緩衝材」として機能します。総資産に占める割合は小さいですが、財政の短期的な安定度を示す指標として重要です。
2. 行政コスト計算書:市の「損益計算書」を読む
ポイント: R6年度の経常費用は1,163億円と、R5の1,112億円から+51億円(+4.6%)急増した。主因は退職手当引当金繰入額の急増(+66%)と診療所事業の一般会計編入によるコスト移管。ただし純行政コスト(1,127億円)は財源(1,150億円)に収まっており、単年度の財政収支は黒字を維持。
行政コスト計算書(損益計算書に相当)= 「1年間に行政サービスにいくらかかり、どれだけ収益があったか」の一覧。
用語のポイント:
- 移転費用(=補助金・扶助費・社会保障給付など、市民や他団体への支払い)
- 純行政コスト(=コスト合計から使用料等の収益を引いた、税金でまかなうべき正味の金額)
- 純経常行政コスト(=純行政コストから災害等の臨時損益を除いた、通常ベースの値)
■ 費用・収益の推移(一般会計等・単位:億円)
| 科目 | R4 | R5 | R6 | R4→R6 変化 |
|---|---|---|---|---|
| 経常費用 合計 | 1,130 | 1,112 | 1,163 | +33 |
| 人件費 | 211 | 215 | 238 | +27 |
| 物件費等(委託費・修繕費・減価償却等) | 415 | 413 | 431 | +16 |
| うち減価償却費 | — | — | 131 | — |
| 移転費用(補助金・社会保障給付等) | 490 | 470 | 483 | ▲7 |
| その他業務費用(支払利息等) | 14 | 14 | 12 | ▲2 |
| 経常収益(使用料・手数料等) | 34 | 32 | 38 | +4 |
| 純経常行政コスト | 1,096 | 1,081 | 1,125 | +29 |
| 臨時損失(災害対応等・通常外の支出) | 3 | 21 | 2 | — |
| 臨時利益(通常外の収益) | 1 | 1 | 0.4 | — |
| 純行政コスト | 1,098 | 1,101 | 1,127 | +29 |
■ 費用の構成比(一般会計等)
移転費用(社会保障費等)が全コストの40〜43%前後を占めています。
| 科目 | R4構成比 | R5構成比 | R6構成比 |
|---|---|---|---|
| 人件費 | 18.7% | 19.3% | 20.5% |
| 物件費等 | 36.7% | 37.1% | 37.1% |
| 移転費用 | 43.4% | 42.3% | 41.5% |
| その他業務費用 | 1.2% | 1.3% | 1.0% |
移転費用の構成比はR4→R6にかけて43.4%から41.5%へ1.9ポイント低下しています。一方で人件費の構成比は18.7%から20.5%へ1.8ポイント上昇。R6年度の費用増加の主役が移転費用(社会保障)から人件費側に移ったことを示します。
■ 財源と本年度差額(一般会計等・単位:億円)
ポイント: 3年間いずれの年も財源が純行政コストを上回り、本年度差額はプラス(純資産増加)を維持。ただし余剰幅は縮小傾向にあり(R4=+50億→R5=+17億→R6=+23億)、財源と費用の差が小さくなっている。
| 科目 | R4 | R5 | R6 |
|---|---|---|---|
| 財源 合計 | 1,148 | 1,118 | 1,150 |
| 税収等(市税・地方交付税等) | — | — | 838 |
| 国県等補助金 | — | — | 312 |
| 本年度差額(財源 ー 純行政コスト) | +50 | +17 | +23 |
| 本年度末純資産額 | 3,758 | 3,786 | 3,818 |
※財源内訳(税収等・国県等補助金)はR6年度のみ確認。
R6年度の財源1,150億円の内訳を見ると、税収等838億円(73%)と国県等補助金312億円(27%)です。補助金の占める割合が27%と高く、国・県の政策次第で財源が変動するリスクがあります。
■ 全体会計との比較(R6年度・単位:億円)
| 科目 | 一般会計等(R6) | 全体(R6) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 経常費用合計 | 1,163 | 1,762 | +599 |
| うち人件費 | 238 | 252 | +14 |
| うち物件費等 | 431 | 562 | +131 |
| うち移転費用 | 483 | 917 | +434 |
| 経常収益 | 38 | 124 | +86 |
| 純行政コスト | 1,127 | 1,638 | +511 |
全体で移転費用が483億円から917億円へ+434億円と大きく増えているのは、国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険の給付費用(社会保障給付)が全体会計に含まれるためです。これらは法定の給付で削減不可であり、全体財政を圧迫する構造問題の実態を示しています。全体の受益者負担割合(7.1%)が一般会計等(3.3%)より高い理由も、水道・下水道の使用料収入が全体に含まれるためです。
3. 大きな変化の項目:なぜ動いたか
ポイント: R6年度の費用急増の主役は「退職手当引当金繰入額+66%」と「診療所事業の一般会計編入による人件費移管」の2つ。臨時損失はR5の21億円から2億円へ正常化。移転費用(社会保障費)は緩やかな増加傾向が続いており、構造的に削減できない費用が膨らんでいる。
■ 退職手当引当金繰入額:R5→R6で+66%の急増
| 項目 | R4 | R5 | R6 |
|---|---|---|---|
| 退職手当引当金繰入額(億円) | 10 | 10 | 17 |
| 人件費に占める割合 | 4.6% | 4.8% | 7.2% |
なぜR6で急増したか
退職手当引当金とは「年度末時点で全職員が一斉に退職した場合に必要な退職金の見込み額」を費用として計上するものです。実際の現金支出ではなく、将来の支出に備えた会計上の引当です。
R6年度に17億円(前年比+7億円・+66%)と急増した主な理由は、職員の勤続年数構造の変化と特定年次の退職者増加に伴う引当増です。これは一時的な変動の可能性もありますが、将来の退職金負担が確実に存在することを示しており、財政の潜在的リスクとして注視が必要です。
全体会計でも同様の傾向が確認できます(一般会計等+7億円、全体+6億円の増加)。
■ 人件費:3年で+27億円(+13%)の持続的増加
R4→R5:+4億円
R4の211億円からR5の215億円へ小幅増加。職員給与の定期昇給と賞与等引当金の微増が主因です。
R5→R6:+23億円(+11%)の急増
R5の215億円からR6の238億円へ大幅増加。要因は2つです。①退職手当引当金が前述のとおり+7億円急増。②診療所事業特別会計が令和6年度より一般会計に編入されたため、診療所職員の人件費が一般会計等に加算されました。
純粋な人件費増加トレンドを測るには、診療所編入の影響を除いた比較が必要ですが、公表データでは分離されていません。R6年度の1人当たり行政コスト(一般会計等)93,100円/人は3市中で最低水準(新潟市121,600円/人、上越市91,000円/人)であり、人件費の水準自体は3市比較で低い位置にあります。
■ 移転費用:R5の急落からR6で回復、しかし社会保障給付は増加傾向
| 項目 | R4 | R5 | R6 |
|---|---|---|---|
| 移転費用 合計(億円) | 490 | 470 | 483 |
| 補助金等(億円) | 229(推計) | 215(推計) | 229 |
| 社会保障給付(億円) | 144(推計) | 150(推計) | 159 |
| 他会計繰出金(億円) | 92(推計) | 93(推計) | 92 |
※R4・R5の内訳は概算(市民1人当たり数値×人口から推計)
R4→R5:▲20億円の減少
補助金等がR4から大幅に減少(▲14億円推計)したことが主因です。COVID-19関連の特別補助事業の縮小・終息が反映されています。
R5→R6:+13億円の回復
社会保障給付が+9億円増加(150億→159億円)したことが主因です。高齢化の進行に伴い、後期高齢者医療や介護保険への繰出金が増加傾向にあります。一方で補助金等は診療所の一般会計編入の影響を受けており、単純比較が難しい。
社会保障給付の増加は毎年度続く構造的な動きであり、今後も漸増が見込まれます。
■ 臨時損失:R5に21億円と突出した後、R6は正常化
| 項目 | R4 | R5 | R6 |
|---|---|---|---|
| 臨時損失(億円) | 3 | 21 | 2 |
| 臨時利益(億円) | 1 | 1 | 0.4 |
なぜR5に急増したか
R5年度の臨時損失21億円は、過去の有形固定資産の除却損(資産除売却損)が大きかったことが主因と推定されます。施設の老朽化に伴う解体・撤去で、帳簿上の資産価値を費用として一括計上するケースです。R6年度は2億円と正常水準に戻っており、R5は一時的な集中除却の年度だったと見られます。
4. 資金収支計算書:現金の動き
ポイント: 業務活動収支(日常の行政サービスで生まれる現金)は3年連続増加(87億→104億→118億円)と健全。投資活動支出はR5に125億円と活発だったが、R6は81億円と落ち着いた。財務活動収支(地方債の借入・返済)はR5に+14億円(借入超過)だったが、R6は▲40億円(返済超過)に転じており、借金の純減が進んでいる。
資金収支計算書(キャッシュフロー計算書に相当)=「現金がどこから入ってきて、どこに出ていったか」の一覧。
| 活動区分 | 意味 | 望ましい状態 |
|---|---|---|
| 業務活動収支 | 日常の行政サービスから生まれる現金の収支 | プラス |
| 投資活動収支 | 施設整備・資産購入への支出 | マイナスが大きすぎなければ正常 |
| 財務活動収支 | 地方債の借入・返済の収支 | マイナス=返済超過で健全 |
■ 一般会計等(単位:億円)
| 活動区分 | R4 | R5 | R6 |
|---|---|---|---|
| 業務活動収支 | 87 | 104 | 118 |
| 投資活動収支 | ▲72 | ▲125 | ▲81 |
| 財務活動収支 | ▲12 | +14 | ▲40 |
| 当期資金収支(合計) | +3 | ▲7 | ▲3 |
| 期首資金残高(年度始め) | 68 | 71 | 64 |
| 期末現金預金残高(年度末) | 81 | 74 | 71 |
■ 基礎的財政収支(プライマリーバランス)
業務活動収支+投資活動収支で計算。「新規借入を除いて、今年の収入で今年の行政サービスと投資をまかなえているか」を示します。
- R4:87+(▲72)= +15億円(黒字)
- R5:104+(▲125)= ▲21億円(赤字) ← 投資増加年
- R6:118+(▲81)= +37億円(黒字)
R5の赤字は投資活動が活発(125億円)だったことが原因であり、業務活動収支自体は黒字を維持していました。R6は業務活動が118億円と力強く改善し、投資活動も81億円と適正規模に収まり、プライマリーバランスは+37億円と3年で最良の水準です。
■ 注目変化:投資活動の推移が示す施設整備の波
R5年度の投資活動支出125億円はR4の72億円から+53億円と大幅増加しました。公共施設等整備費が主な項目です。R6は81億円に戻り、R5の集中投資期が一段落したことがわかります。財務活動収支もR5の+14億円(新規借入超過)からR6の▲40億円(返済超過)に転換しており、投資のための地方債を計画的に発行→返済するサイクルが機能しています。
5. 財務指標:新潟県内3市との比較
ポイント: 長岡市の純資産比率(69.1%)と1人当たり純資産(1,466千円=R5年度比較)はいずれも新潟市・3市平均を大きく上回る優位な水準。ただし受益者負担割合(3.3%)は3市中最低で、コストの97%近くを税金・補助金で賄っている点は改善余地がある。
※比較データは長岡市の財務書類概要版に収録。最新公表値はR5年度決算比較(R6概要版)。R6年度比較値は次回公表予定。
■ 資産形成度(市の資産の「量」)
| 指標 | R4 | R5 | R6 | R5年度3市平均 |
|---|---|---|---|---|
| 市民1人あたり資産額(千円) | 2,094 | 2,140 | 2,164 | 1,952 |
| 市民1人あたり純資産額(千円) | 1,438 | 1,466 | 1,496(推計) | 1,188 |
| 資産老朽化比率(一般会計等)(%) | 51.4 | 51.6 | 52.9 | — |
| 資産老朽化比率(全体)(%) | — | — | 49.0 | — |
読み方: 長岡市の市民1人当たり資産額(2,164千円)は3市平均(1,952千円)を+212千円(+10.9%)上回っています。これは長岡市が広い市域に道路・学校・公共施設を多数保有していることを反映します。同様に、1人当たり純資産(1,466千円)も3市平均(1,188千円)を+278千円上回っており、これまでの世代が自己資金で整備した資産の蓄積が大きいことを示します。
資産老朽化比率(=有形固定資産の取得価額に占める減価償却累計額の割合)は一般会計等で R4=51.4%→R5=51.6%→R6=52.9% と3年連続上昇しており、老朽化の進行が数字にも表れています。全体(水道・下水道含む)はR6=49.0%です。標準的な目安が50%程度とされる中で、一般会計等はその水準を超えており、特に「生活インフラ・国土保全」(道路・都市計画・公園)が R4=52.3%→R5=53.6%→R6=55.0% と最も老朽化が進んでいます。今後10〜15年で道路舗装や橋梁の大規模更新が集中する可能性があり、更新費用の試算と計画的な積立が課題です。
■ 世代間公平性(今の世代と将来世代のコスト分担)
| 指標 | R4 | R5 | R6 | R5年度3市平均 |
|---|---|---|---|---|
| 純資産比率(一般会計等)(%) | 68.7 | 68.5 | 69.1 | — |
| 純資産比率(全体)(%) | 57.8 | 58.1 | 59.0 | — |
| 社会資本負担比率・将来世代(一般会計等)(%) | 19.7 | 20.5 | 20.6 | — |
| 市民1人あたり負債額(千円) | 656 | 674 | 668 | 764 |
読み方: 純資産比率(一般会計等69.1%)は「資産の69%はこれまでの世代が税金・補助金で賄い、31%が将来世代が返済すべき借金で整備した」ことを示します。全体(59.0%)でも6割近くが過去世代の負担で、全国的な標準(6割程度)に近い水準です。
市民1人当たり負債額(668千円)は3市平均(764千円)を▲96千円下回る低負債水準です。これは新潟市(959千円)と比較すると約▲291千円の差があり、人口規模が大きい政令市・県庁所在地と比べても長岡市の財政健全性が際立っています。
社会資本負担比率(将来世代分)20.6%は、臨時財政対策債(=地方交付税の不足分を補うために国が自治体に発行させる借金で、実質的な国の債務肩代わり)などの特例的地方債を除いた数字です。有形固定資産のうち約21%は将来世代が借金で返済するものであり、この割合がR4(19.7%)から緩やかに上昇している点は注視が必要です。
■ 持続可能性(財政を続けられるか)
| 指標 | R4 | R5 | R6 | R5年度3市平均 |
|---|---|---|---|---|
| 市民1人あたり負債額(千円) | 656 | 674 | 668 | 764 |
| 基礎的財政収支(億円) | +15 | ▲21 | +37 | — |
| 実質公債費比率 | — | — | 8.0% | — |
| 将来負担比率 | — | — | 74.6% | — |
用語補足:
- 基礎的財政収支(プライマリーバランス)=「新規借入を除いて、今年の収入で今年の支出をまかなえているか」。黒字なら自立、赤字なら借金依存。
- 実質公債費比率(=元利償還金が標準財政規模に占める割合):8.0%は政令市平均より低い水準で健全圏内です。
- 将来負担比率(=将来負担見込み額が標準財政規模に占める割合):74.6%は早期健全化基準(350%)を大幅に下回っており、財政は安定しています。
基礎的財政収支は、R5の▲21億円を除けばR4(+15億円)・R6(+37億円)と黒字を維持。R5の一時的な赤字は投資活動の増加が原因であり、構造的な財政悪化ではありません。
■ 効率性・自律性(コストと市民負担はどうか)
| 指標 | R4 | R5 | R6 | R5年度3市平均 |
|---|---|---|---|---|
| 市民1人あたり行政コスト(千円)(一般会計等) | 420.5 | 426.4 | 441.4 | 472.4 |
| 受益者負担の割合(一般会計等)(%) | 3.0 | 2.9 | 3.3 | — |
| 受益者負担の割合(全体)(%) | 6.9 | 7.0 | 7.1 | — |
用語補足:
- 受益者負担の割合(=公共施設を使う市民が使用料として払う金額が、施設維持コストに占める割合)。3.3%という数字は、施設コストの96.7%を税金・補助金で補填している状態を意味します。
長岡市の1人当たり行政コスト(441千円)はR5比較の3市平均(472千円)を▲31千円下回る低コスト水準です。新潟市(481千円)より40千円少なく、上越市(508千円)より67千円低い。この差は長岡市の行政運営が相対的に効率的であることを示唆します。
ただし、受益者負担割合3.3%(一般会計等)は3市の中で最低水準です。図書館・公民館・スポーツ施設等の使用料が収益全体に占める割合が低く、コストのほとんどを税金と交付税で負担しています。受益者負担の適正化(料金水準の見直し)は、財政の自律性を高める手段として検討余地があります。
6. まとめ:3年の数字が示す長岡市財政の実像
■ 3年間のサマリー
| 項目 | R4 | R5 | R6 | トレンド | 評価 |
|---|---|---|---|---|---|
| 純資産(億円) | 3,758 | 3,786 | 3,818 | ↑ | 良好 |
| 地方債残高(億円) | 1,533 | 1,548 | 1,509 | ↓ | 良好 |
| 経常費用(億円) | 1,130 | 1,112 | 1,163 | ↑ | 要注意 |
| 移転費用・社会保障費(億円) | 490 | 470 | 483 | → | 構造問題 |
| 業務活動収支(億円) | 87 | 104 | 118 | ↑ | 良好 |
| 財源余剰(財源-純行政コスト)(億円) | +50 | +17 | +23 | → | 要注意 |
| 資産老朽化比率(一般会計等) | — | — | 52.9% | ↑ | 要注意 |
| 基礎的財政収支(億円) | +15 | ▲21 | +37 | → | 良好 |
| 市民1人あたり行政コスト(千円) | 420.5 | 426.4 | 441.4 | ↑ | 良好(3市比較で低水準) |
R6年度は費用が急増しましたが、これは①退職手当引当金(会計上の費用・現金支出なし)の一時的増加と②診療所事業の一般会計編入による費用移管という2つの特殊要因が重なったためです。基礎的財政収支はむしろ改善(▲21億→+37億)しており、現金ベースの財政運営は堅調です。
純資産の着実な増加(+60億円)と地方債の減少(▲24億円)という組み合わせは、財政の自立度が着実に向上していることを示しています。
7. 財政が抱える構造問題
数字を整理すると、長岡市の財政問題は「性質の異なる4層」に分解できます。
■ 問題の全体像
| 問題 | 深刻度 | 改善可能性 | 原因 |
|---|---|---|---|
| 社会保障費の構造的増加 | 高 | 低(法定給付・削減不可) | 少子高齢化 |
| インフラ老朽化と更新費の集中 | 中 | 中(計画次第) | 高度成長期整備資産の寿命到来 |
| 人口減少と行政コスト単価の上昇 | 高 | 低(全国共通の構造) | 少子化・若年層転出 |
| 受益者負担割合の低さ | 中 | 中(住民合意次第) | 料金水準の据え置き傾向 |
■ 問題①:社会保障費の構造的増加
深刻度:高 改善可能性:低(法定給付のため)
一般会計等の移転費用は社会保障給付(R6年度=159億円)・補助金等(229億円)・他会計繰出金(92億円)から構成され、合計483億円が経常費用の41.5%を占めます。全体(一般会計+特別会計+企業会計)で見ると移転費用は917億円、経常費用の52.1%にのぼります。
社会保障給付は高齢者人口の増加に連動して毎年増加します(R4=144億→R6=159億円・推計)。後期高齢者医療制度・介護保険の給付水準は国の法律で定められており、市が独自に削減できません。長岡市の後期高齢者は今後も増加が見込まれ、2030年代にかけて社会保障費はさらなる増加が避けられない見通しです。
■ 問題②:インフラ老朽化と更新費の集中
深刻度:中 改善可能性:中(計画的対応で緩和可能)
一般会計等の資産老朽化比率は52.9%(R6)。特に「生活インフラ・国土保全」(道路・都市計画・公園)が55.0%と最も進んでいます。これは取得時からの経過年数が耐用年数の55%に達したことを意味し、あと10〜20年で大規模更新が集中します。
全体(水道・下水道含む)の老朽化比率は49.0%ですが、管路延長が長い下水道(全体で含まれる)の老朽化は特に深刻で、更新費の長期試算が今後の重要課題です。長岡市は「長岡市公共施設等総合管理計画」を策定しており、施設の集約・複合化で更新費の圧縮を目指していますが、個別施設の統廃合は地域住民との合意形成が必要で、実行には時間を要します。
■ 問題③:人口減少と行政コスト単価の上昇
深刻度:高 改善可能性:低(構造的要因)
長岡市の住民基本台帳人口は令和4年1月の263,728人から令和7年1月の255,261人まで、3年間で▲8,467人(▲3.2%)減少しています。年平均で約2,800人ペースの減少は、国立社会保障・人口問題研究所の推計とほぼ一致した水準です。
行政サービスの固定費(施設維持費・人件費の一部)は人口減少に比例して削減できません。1人当たり行政コストはR4の420千円からR6の441千円へ+5%増加しており、人口減少による「同じコストを少ない人数で割る」効果が数字に現れています。2030年代に長岡市の人口が24万人規模(現在比▲6%)に縮小した場合、現状の行政サービス水準を維持するための1人当たりコストはさらに上昇します。
■ 問題④:受益者負担割合の低さ
深刻度:中 改善可能性:中(住民合意次第)
一般会計等の受益者負担割合はR6年度で3.3%と、2〜8%の標準範囲の下限付近にあります。長岡市はスポーツ施設・文化施設・市営駐車場など多様な施設を保有していますが、その維持コストの96.7%を税金・補助金で賄っています。
使用料の引き上げは「受益者負担の適正化」として財政改善効果がありますが、市民の反発も大きく、合意形成に時間と労力がかかります。また、引き上げによる収益増加は利用者数の減少を招く可能性もあります。段階的な値上げと利用者への丁寧な説明が必要です。
8. 解決策の検討:できることとできないことを分ける
■ 解決策の現実性マトリックス
| 対策 | 効果規模 | 実現難易度 | タイムライン |
|---|---|---|---|
| 受益者負担の引き上げ(使用料・施設利用料) | 中 | 中(住民合意が必要) | 1〜3年 |
| 公共施設の集約・複合化・売却 | 中〜大 | 高(地域合意が必要) | 3〜10年 |
| 行政のDX・業務効率化 | 小〜中 | 中 | 3〜7年 |
| 水道・下水道料金の引き上げ | 大(企業会計) | 高(値上げへの抵抗) | 1〜5年 |
| インフラのPPP/PFI(=民間資金・ノウハウを活用した公共施設の運営・整備)・広域化 | 中 | 高(合意形成・事業者調整) | 5〜15年 |
| 産業振興・企業誘致 | 中 | 高(全国競争) | 10年以上 |
| 移住促進・人口維持 | 小 | 高(全国競争) | 10年以上 |
| 社会保障費の削減 | 大(必要) | 不可(法令・憲法上の制約) | — |
■ 短期(1〜3年)でできること
最も即効性があるのは受益者負担の適正化です。現在3.3%の受益者負担割合を標準的な5%程度に引き上げるだけで、年間約20億円の収益増加が見込めます(経常費用1,163億円×1.7%)。具体的には、スポーツ施設・市営駐車場・文化施設の利用料を段階的に見直すことが考えられます。
また、物件費の精査(委託料・消耗品費の見直し)も1〜3年で効果が出やすい分野です。R6年度の物件費は232億円(一般会計等)で、競争入札の活用や業務委託の再設計により数%の圧縮余地があります。
■ 中期(3〜10年)でできること
公共施設の集約・複合化が中心です。長岡市は「長岡市公共施設等総合管理計画」(2017年策定)のもと、施設の適正配置を検討しています。学校の統廃合、公民館・コミュニティセンターの複合施設化などが具体的な手段ですが、地域住民との合意形成に3〜7年を要するケースが多いです。
水道・下水道の広域化・料金見直しも中期の重要課題です。特に下水道は全体のインフラ資産の大部分を占め、老朽化更新費の試算によっては早期の料金改定が不可避となります。
■ 長期(10年以上)でないと変えられないこと
人口構造・産業構造・社会保障制度は市単独では動かせない構造的要因です。「長岡市まち・ひと・しごと創生総合戦略」などで移住促進・産業振興を図っていますが、全国の自治体が競合する中で、長岡市固有の優位性(医療・教育・交通へのアクセスや豊富な自然環境)を活かした差別化が問われます。
■ 現実的な見通し:「財政破綻なし・費用上昇は続く」
3つの指標から長岡市の財政の位置を評価します。
まず基礎的財政収支(R6年度+37億円)はプラス水準を維持。純資産は3,818億円と着実に積み上がっており、過去世代の資産ストックが厚い。地方債残高はR5ピークから減少局面に入り、借入依存度は低下しています。この3指標を総合すると、現状で財政破綻のリスクは低いと評価できます。
一方で、見逃せないリスクが3つあります。
- 波① 2030年代の社会保障費急増:後期高齢者人口がさらに増加し、移転費用が現在の483億円から550億円超に膨らむ可能性
- 波② インフラ更新費の集中:老朽化比率55%の道路・橋梁の大規模更新が2030〜2040年代に集中し、投資活動支出が拡大する見込み
- 波③ 人口減少による税収・交付税の減少:人口26万人台から20万人台への縮小は、市税収入・地方交付税の算定基礎(人口按分分)に影響
「財政は安全、しかし放置すれば悪化」という状況です。今の健全財政を維持するためこそ、公共施設の見直しと受益者負担の適正化を先手で進めることが、長岡市に求められる財政戦略です。
データ出典:
- 長岡市財務書類【統一的な基準】概要版(令和4〜6年度)・一般会計等及び全体財務4表(令和6年度)(長岡市):https://www.city.nagaoka.niigata.jp/shisei/cate03/zaisei/zaimu.html
- 比較値(長岡市・新潟市・上越市):長岡市財務書類概要版 各年度版より(比較はR4〜R5年度決算値)
- 人口推計(2030年代の将来推計):国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」https://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson23/t-page.asp
- 統一的な基準による地方公会計(財務書類の様式・解説):総務省 https://www.soumu.go.jp/iken/koukaikei/index.html
- 情報基準日:令和6年度(2024年度)決算
- 次回更新推奨:令和7年度財務書類公表後(2025年秋〜冬予定)
- 未取得データ(1件):財源内訳(税収等・国県等補助金)のR4・R5年度分。詳細財務書類の21ページ以降に記載あり。次回更新時に追記予定。

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