新潟市の財政を数字で読む|純資産・借金・行政コストの3年推移【令和4〜6年度】

  1. この記事でわかること
  2. この記事を読む前に
  3. 目次
  4. 0. 会計区分の説明:「一般会計等」と「全体」は何が違うか
    1. ■ 3種類の会計とは
    2. ■ 一般会計等と全体の差(R5年度・単位:億円)
  5. 1. 貸借対照表:資産・借金・純資産の3年推移
    1. ■ 貸借対照表3年推移(一般会計等・単位:億円)
    2. ■ 全体会計(一般会計+特別会計+企業会計・単位:億円)
    3. ■ 注目変化①:純資産が3年連続で減少
    4. ■ 注目変化②:地方債は減っているが、短期返済圧力が上昇
    5. ■ 注目変化③:基金(積立金)が一時減少し回復
  6. 2. 行政コスト計算書:市の「損益計算書」を読む
    1. ■ 費用・収益の推移(一般会計等・単位:億円)
    2. ■ 費用の構成比(一般会計等)
    3. ■ 財源と本年度差額(一般会計等・単位:億円)
    4. ■ 全体会計との比較(単位:億円)
  7. 3. 大きな変化の項目:なぜ動いたか
    1. ■ 物件費:R4→R5で▲70億円、R5→R6で+93億円
    2. ■ 人件費:R5→R6で+72億円
    3. ■ 移転費用:3年連続で増加(+144億円)
    4. ■ 臨時損失:R5で急増し、R6で急減
  8. 4. 資金収支計算書:現金の動き
    1. ■ 一般会計等(単位:億円)
    2. ■ 全体会計(単位:億円)
    3. ■ 注目変化:R6の投資活動が急拡大した理由
  9. 5. 財務指標:政令市20市との比較
    1. ■ 資産形成度(市の資産の「量」と「老朽度」)
    2. ■ 世代間公平性(今の世代と将来世代でコストをどう分担しているか)
    3. ■ 持続可能性(財政を続けられるか)
    4. ■ 効率性・自律性(コストと市民負担はどうか)
  10. 6. まとめ:3年の数字が示す新潟市財政の実像
    1. ■ 3年間のサマリー
  11. 7. 財政が抱える4つの構造問題
    1. ■ 問題の全体像
    2. ■ 問題① 社会保障費の構造的増加:止める方法がない
    3. ■ 問題② インフラ老朽化:2030年代に更新の波が来る
    4. ■ 問題③ 人口減少:インフラを使う人が減るのに維持費は変わらない
    5. ■ 問題④ 純資産の継続的減少:収入が支出に追いついていない
  12. 8. 解決策の検討:できることとできないことを分ける
    1. ■ 解決策の現実性マトリックス
    2. ■ 短期(1〜3年)でできること
    3. ■ 中期(3〜10年)でできること
    4. ■ 長期(10年以上)でないと変えられないこと
    5. ■ 現実的な見通し:「財政破綻なし、構造的悪化は続く」

この記事でわかること

  • 一般会計・特別会計・企業会計の違いと、それぞれが示す財政の姿
  • 新潟市の貸借対照表・行政コスト計算書を3年分(令和4〜6年度)で比較
  • 大きく動いた項目(物件費・人件費・移転費用・投資活動)がなぜ変化したか
  • 政令市20市の中で新潟市がどの位置にいるか

この記事を読む前に

新潟市が毎年公表する「財務書類(統一的な基準)」のデータをもとに解説します。企業でいう決算書(バランスシート・損益計算書・キャッシュフロー計算書)に相当するものです。

数字の読み方

  • 単位は特に断りのない限り億円
  • R4・R5・R6 = 令和4・5・6年度(2022・2023・2024年度)
  • ▲ = マイナス(減少) プラスと▲が良い・悪いかは指標による
  • 専門用語は初出時に (=〇〇) で補足しています

目次

  1. 会計区分の説明:「一般会計等」と「全体」は何が違うか
  2. 貸借対照表:資産・借金・純資産の3年推移
  3. 行政コスト計算書:市の「損益計算書」を読む
  4. 大きな変化の項目:なぜ動いたか
  5. 資金収支計算書:現金の動き
  6. 財務指標:政令市20市との比較
  7. まとめ:3年の数字が示す新潟市財政の実像
  8. 財政が抱える4つの構造問題
  9. 解決策の検討:できることとできないことを分ける

0. 会計区分の説明:「一般会計等」と「全体」は何が違うか

財務書類には「一般会計等」と「全体」の2列があります。この違いを先に押さえておくと、数字の意味がはっきりします。

■ 3種類の会計とは

市の財政は「財布の種類」によって3つに分けて管理されています。

区分含まれるもの例えると
一般会計市の基本的な行政サービス全般(教育・福祉・道路・消防等)家計でいう「生活費口座」
特別会計特定事業ごとに一般会計から切り離した財布「教育費口座」「医療費口座」など目的別
企業会計独立採算を目指す事業(水道・下水道・病院)副業の財布(稼いで維持することが前提)

新潟市の財務書類における「一般会計等」は、一般会計に土地取得・公債管理等の小規模特別会計を合算したものです。「全体」はさらに国民健康保険・介護保険・水道・下水道・病院事業等をすべて加えた数字です。

■ 一般会計等と全体の差(R5年度・単位:億円)

ポイント: 「全体」の資産が「一般会計等」より約7,700億円多い主因は、水道・下水道管などのライフラインです。「一般会計等」だけ見ると、市が管理するインフラの実態の半分しか見えていません。

科目一般会計等全体差額(特別会計+企業会計分)
資産合計12,32420,007+7,683
 うちインフラ資産6,63513,116+6,481
負債合計7,35713,319+5,962
純資産(=資産-負債)4,9676,688+1,721
経常費用(年間コスト)3,7965,799+2,003
純行政コスト3,6985,107+1,409

差額の大半は水道・下水道・病院事業が占めます。インフラ資産の差額6,481億円は水道管・下水道管・ポンプ場などのライフライン施設です。


1. 貸借対照表:資産・借金・純資産の3年推移

ポイント: 借金(地方債)の残高は3年で▲124億円と着実に減っている。一方、純資産は▲119億円と3年連続で減少。収入より支出が多い状態が続いており、過去の積み上げを少しずつ取り崩している。

貸借対照表(バランスシート)= 「今この瞬間に、市が何を持っていて、何を借りているか」の一覧。

  • 資産:道路・学校・現金など市が保有する財産
  • 負債:将来返済しなければならない借金(地方債など)
  • 純資産:資産から負債を引いた差額。過去の世代が積み上げた正味の財産

■ 貸借対照表3年推移(一般会計等・単位:億円)

科目R4R5R6R4→R6 変化
資産合計12,42812,32412,239▲189
 固定資産(=長期に保有する資産)12,15812,02811,965▲193
  事業用資産(庁舎・学校・公民館等)4,8644,7274,636▲228
  インフラ資産(道路・橋・公園等)6,6536,6356,620▲33
  物品9098
 無形固定資産(ソフトウェア等)192827+8
 投資その他資産527549584+57
 流動資産(=1年以内に換金できる資産)270296274+4
  現金預金91149128+37
  基金(=目的別の積立金)161127132▲29
負債合計7,3877,3577,317▲70(返済進捗)
 固定負債(=1年超の返済期限の借金)6,8696,8226,768▲101
  地方債(=市が発行する借金の証書)6,1426,0816,018▲124(返済進捗)
  引当金(=将来の退職金等に備えた積立)726740749+23
 流動負債(=1年以内に返済が必要な借金)518535550+32
  1年以内償還予定地方債452464472+20
純資産(=資産-負債)5,0414,9674,922▲119(取り崩し)

■ 全体会計(一般会計+特別会計+企業会計・単位:億円)

科目R4R5R6R4→R6 変化
資産合計20,10620,00719,817▲289
 固定資産19,47919,32619,228▲251
  事業用資産5,0904,9434,858▲232
  インフラ資産13,13113,11613,071▲60
 流動資産628681589▲39
  現金預金306383283▲23
負債合計13,37413,31913,172▲202(返済進捗)
 固定負債12,44412,32912,217▲227
  地方債9,5419,4279,337▲204(返済進捗)
 流動負債931990955+24
純資産6,7326,6886,644▲88(取り崩し)

■ 注目変化①:純資産が3年連続で減少

純資産(一般会計等)は5,041→4,967→4,922億円と毎年減少しています。年平均約40億円のペースです。純資産が減るということは、行政サービスの費用の一部を「過去の積み上げの取り崩し」でまかなっていることを意味します。

財政力指数が低い(=国からの交付税依存度が高い)政令市ほど、臨時財政対策債(=国の財源不足時に自治体が代わりに発行する赤字債)の発行が多くなり、純資産比率が低くなる傾向があります。新潟市はこの構造に当てはまります(詳細はSection 5)。

■ 注目変化②:地方債は減っているが、短期返済圧力が上昇

地方債残高は3年で▲124億円(一般会計等)と減少しており、長期的な借金返済は進んでいます。一方で、1年以内に返済が必要な短期地方債は452→464→472億円と増加しており、返済期限が集中しつつあることを示しています。

■ 注目変化③:基金(積立金)が一時減少し回復

財政調整基金などの積立金は161→127→132億円と推移しています。R5に積立金を取り崩して財政運営を行った後、R6は若干回復しています。


2. 行政コスト計算書:市の「損益計算書」を読む

ポイント: R6年度の年間コストが前年比+241億円急増(3,796→4,037億円)。能登半島地震対応の人件費・物件費増と、社会保障費の構造的増加が重なったため。税収等の財源(3,820億円)はコスト(3,899億円)に届かず、財源不足は▲79億円(改善傾向だが黒字化には至っていない)。

行政コスト計算書(損益計算書に相当)= 「1年間に行政サービスにいくらかかり、どれだけ収益があったか」の一覧。

用語のポイント:

  • 移転費用(=補助金・扶助費・社会保障給付など、市民や他団体への支払い)
  • 純行政コスト(=コスト合計から使用料等の収益を引いた、税金でまかなうべき正味の金額)
  • 純経常行政コスト(=純行政コストから災害等の臨時損益を除いた、通常ベースの値)

■ 費用・収益の推移(一般会計等・単位:億円)

科目R4R5R6R4→R6 変化
経常費用 合計3,8133,7964,037+224(+5.9%)
 人件費9329341,006+74(+7.9%)
 物件費(委託費・修繕費・光熱費等)1,2291,1591,252+23(+1.9%)
 移転費用(補助金・社会保障給付等)1,5841,6511,728+144(+9.1%)
 その他業務費用685350▲18
経常収益(使用料・手数料等)119116130+11
純経常行政コスト3,6943,6803,907+213
 臨時損失(災害対応等・通常外の支出)11241
 臨時利益(通常外の収益)059
純行政コスト3,7053,6983,899+194(+5.2%)

■ 費用の構成比(一般会計等)

移転費用(社会保障費等)が全コストの4割強を占め、3年通して増加傾向にあります。

科目R4構成比R5構成比R6構成比
人件費24%25%25%
物件費32%31%31%
移転費用42%43%43%
その他業務費用2%1%1%

■ 財源と本年度差額(一般会計等・単位:億円)

ポイント: 財源合計(3,820億円)が純行政コスト(3,899億円)に▲79億円届いていない。この差分が純資産の取り崩しにつながっている。

科目R4R5R6
財源 合計3,5843,6013,820
 税収等(市税・地方交付税等)2,6402,4872,623
 国県等補助金1,1821,1141,196
本年度差額(財源 ー 純行政コスト)▲121▲97▲79
本年度末純資産額5,0414,9674,922

※ R4の税収等と国県等補助金の合計(3,822億円)が財源合計(3,584億円)と▲238億円の差異あり。R5・R6は一致しており、R4原典PDF(財務書類)との照合が必要な項目です。

■ 全体会計との比較(単位:億円)

科目R4R5R6R4→R6 変化
経常費用合計(一般会計等)3,8133,7964,037+224
経常費用合計(全体)5,7885,7996,084+296
 うち人件費(全体)1,1051,1081,193+88
 うち物件費(全体)1,7591,7051,791+32
 うち移転費用(全体)2,7762,8472,961+185
純行政コスト(一般会計等)3,7053,6983,899+194
純行政コスト(全体)5,1845,1075,338+154

3. 大きな変化の項目:なぜ動いたか

■ 物件費:R4→R5で▲70億円、R5→R6で+93億円

R4→R5 ▲70億円:コロナ対策費の剥落

R4年度(2022年度)はコロナ関連の委託費・給付金事務・ワクチン接種費等が多額に計上されていました。R5年度(2023年度)からコロナ対応が終了し、物件費が通常水準に戻りました。これは「コスト改善」ではなく「特需の消滅」です。翌年以降に物価高・地震対応で反転しました。

R5→R6 +93億円:能登半島地震対応と物価高騰

能登半島地震(2024年1月)で新潟市内(特に西区・中央区の一部)でも液状化被害が発生しました。被災家屋の解体・撤去費用、液状化対策工事費、仮設施設の管理費等が物件費として計上されています。加えて、物価高騰に伴う委託費・光熱費の単価上昇も重なりました。


■ 人件費:R5→R6で+72億円

なぜ急増したか:能登半島地震対応の職員コスト

新潟市は石川県の被災自治体へ300人超の職員を延べ派遣しました。派遣職員の応援手当・時間外手当・旅費等が市の負担として計上されます。加えて、市内の液状化被害対応(調査・補助金受付・工事調整等)の時間外勤務の急増も寄与しています。

R6財務書類の公式分析:「能登半島地震に伴う被災家屋等の解体・撤去事業や職員給与支出等により、経常費用の物件費等や人件費が上昇し行政コストが増加している。人口減少も重なり、市民1人あたりの行政コストは令和2年度(541千円)に近い数値となっている」


■ 移転費用:3年連続で増加(+144億円)

なぜ毎年増えるか:社会保障費の構造的増加

移転費用(補助金・扶助費・社会保障給付等)が1,584→1,651→1,728億円と毎年50〜80億円増加しています。主因は高齢化に伴う介護給付費・後期高齢者医療費・障害福祉サービス費の増加です。R6はさらに能登半島地震被災者への応急修理支援・仮設住宅管理費も加算されています。

これは少子高齢化が進む以上、短期的に止まる見込みが薄い「構造的コスト」です。全体会計でも移転費用が2,776→2,961億円(+185億円)と、特別会計(介護保険・国保等)でも同様の増加が続いています。


■ 臨時損失:R5で急増し、R6で急減

項目R4R5R6
臨時損失(災害対応等・通常外支出)(億円)11241
臨時利益(通常外の収益)(億円)059

R5の急増(11→24億円):能登半島地震の初期対応費用

能登半島地震は2024年1月1日に発生(R5年度2023年4月〜2024年3月の期中)しました。地震発生後の2〜3月分の初期対応費用が「臨時損失」として集中計上されたことが主因です。

R6の急減(24→1億円):「臨時」から「通常業務」へ移行

R6は地震対応コストが「臨時的な支出」から「通常の業務コスト(物件費・人件費)」に移行したため、臨時損失は1億円と急減しました。これがR6の経常費用急増(+241億円)の主因と連動しています。


4. 資金収支計算書:現金の動き

ポイント: R5は唯一の黒字年(+57億円)。コロナ特別支出終了後に日常サービスの現金収支が改善したため。R6は能登半島地震の復旧投資が急増し、全体会計の投資活動支出が+222億円拡大した。

資金収支計算書(キャッシュフロー計算書に相当)=「現金がどこから入ってきて、どこに出ていったか」の一覧。3つの活動区分に分けて見ます。

活動区分意味望ましい状態
業務活動収支日常の行政サービスから生まれる現金の収支プラス
投資活動収支施設整備・資産購入への支出マイナスが大きすぎなければ正常
財務活動収支地方債の借入・返済の収支マイナス=返済超過で健全

■ 一般会計等(単位:億円)

活動区分R4R5R6
業務活動収支+102+185+167
投資活動収支▲54▲81▲136
財務活動収支▲78▲48▲53
当期資金収支(合計)▲29+57▲21
期首資金残高(年度始め)11383140
期末現金預金残高(年度末)83140119

■ 全体会計(単位:億円)

活動区分R4R5R6
業務活動収支+348+432+349
投資活動収支▲211▲238▲370
財務活動収支▲169▲117▲80
当期資金収支(合計)▲31+77▲101
期末現金預金残高306375274

■ 注目変化:R6の投資活動が急拡大した理由

一般会計等の投資活動支出は328億円(R5)→473億円(R6)へ急増しました(財務書類PDF 資金収支計算書細目より)。内訳は①地震被害を受けた公共施設・道路の復旧工事、②液状化対策事業、③学校施設の大規模改修です。

全体会計では投資活動支出が523億円(R5)→745億円(R6)と+222億円急増しており(同PDF細目より)、水道・下水道管の地震復旧工事が大規模に計上されています。

R5が黒字だった理由:コロナ後の正常化

R5は業務活動収支が102→185億円へ大きく改善しました。コロナ関連の特別支出が終了したことで、日常的な行政サービスの現金収支が正常化したためです。


5. 財務指標:政令市20市との比較

ポイント: 純資産比率(40.2%)が政令市平均(64.8%)を▲24.6ポイント下回り、政令市最低水準。主因は臨時財政対策債の蓄積。受益者負担の割合も平均の半分以下(3.1% vs 6.5%)で、施設コストをほぼ全額税金で補填している状態。

※ 政令市平均はR5年度値のみ公表。R6との比較は参考値として使用しています。


■ 資産形成度(市の資産の「量」と「老朽度」)

指標R4R5R6R5政令市平均
市民1人あたり資産額(千円)1,6061,6061,6072,451
市民1人あたり償却資産額(千円)738709691517
資産老朽化比率(=耐用年数の何%を使い切ったか)(%)61.263.164.366.7

読み方: 市民1人あたり資産額(1,607千円)は政令市平均(2,451千円)の66%水準。市の資産規模が相対的に小さく、投資余力が限られていることを示します。

資産老朽化比率は毎年約1%上昇中(61.2%→64.3%)。64.3%とは「施設の経済的寿命のうち、すでに64.3%を使い切った」状態です。政令市平均(66.7%)に近づきつつあり、2030年代に大規模更新の波が来ます。


■ 世代間公平性(今の世代と将来世代でコストをどう分担しているか)

指標R4R5R6R5政令市平均
純資産比率(=資産のうち自己資本の割合)(%)40.640.340.264.8
臨時財政対策債含む純資産比率(%)61.661.360.774.1
世代間負担比率(=インフラ整備費のうち将来世代が返済する割合)(%)33.934.234.825.3

読み方: 純資産比率(40.2%)が政令市平均(64.8%)を大きく下回る主因は、臨時財政対策債(臨財債)の蓄積です。臨財債とは、国の財源不足時に地方自治体が代わりに発行する赤字地方債。国が後で地方交付税として補填しますが、それまでは自治体の負債に計上されます。

臨財債を除外して補正した純資産比率は60.7%まで上昇し、政令市平均74.1%との差は13.4ポイントに縮まります。残りの差は施設整備への地方債活用が多かった経緯によるものです(世代間負担比率が平均の1.4倍)。


■ 持続可能性(財政を続けられるか)

指標R4R5R6R5政令市平均
市民1人あたり負債額(千円)954958961863
臨財債除く市民1人あたり負債額(千円)616621632635
基礎的財政収支(億円)+54+125+80
市民元金償還額-市債発行額・臨財債除く(億円)+90+42▲15

用語補足:

  • 基礎的財政収支(プライマリーバランス)=「新規借入を除いて、今年の収入で今年の支出をまかなえているか」。黒字なら自立、赤字なら借金依存。新潟市は3年連続黒字。
  • 市民元金償還額-市債発行額=「借金の返済が新たな借入を上回っているか」。R6にマイナス転落(▲15億円)は、臨財債を除いても新発が返済を上回ったことを意味します。

市民1人あたり負債額(961千円)は政令市平均(863千円)を100千円超過していますが、臨財債を除くと政令市平均(635千円)とほぼ同水準(632千円)です。


■ 効率性・自律性(コストと市民負担はどうか)

指標R4R5R6R5政令市平均
市民1人あたり行政コスト(千円)479482512470(R5のみ)
受益者負担の割合(%)3.13.16.5

用語補足:

  • 受益者負担の割合(=公共施設を使う市民が使用料として払う金額が、施設維持コストに占める割合)。3.1%という数字は、施設コストの97%近くを税金で補填している状態を意味します。政令市平均(6.5%)の約半分です。

R6の市民1人あたり行政コスト(512千円)は、政令市平均(R5=470千円)を42千円超過しています。人口減少と地震対応コスト増が重なり、1人あたり負担が増加しています。


6. まとめ:3年の数字が示す新潟市財政の実像

■ 3年間のサマリー

項目R4R5R6トレンド評価
純資産(億円)5,0414,9674,922要注意
地方債残高(億円)6,1426,0816,018改善中
経常費用(億円)3,8133,7964,037要注意
移転費用・社会保障費(億円)1,5841,6511,728構造問題
業務活動収支(億円)+102+185+167良好
財源不足(財源-純行政コスト)(億円)▲121▲97▲79改善傾向
資産老朽化比率(%)61.263.164.3要注意
基礎的財政収支(億円)+54+125+80良好
市民1人あたり行政コスト(千円)479482512要注意

R6の経常費用急増(+241億円)の内訳は、①能登半島地震対応の人件費・物件費増(一時的要因)と②社会保障費の構造的増加(継続的要因)の重なりです。R7以降、地震対応コストが落ち着いた際に経常費用がどの水準に落ち着くかが、財政健全性の目安となります。


7. 財政が抱える4つの構造問題

数字を整理すると、新潟市の財政問題は「性質の異なる4層」に分解できます。

■ 問題の全体像

問題深刻度改善可能性原因
社会保障費の構造的増加低(人口構造)高齢化による介護・医療・障害福祉給付の増加
インフラ老朽化と一斉更新の波中(計画次第)高度成長期整備の施設が耐用年数に到達しつつある
人口減少と行政コスト単価の上昇低(全国競争)固定コストを割る人口が縮小し続ける
純資産の継続的減少中(受益者負担次第)財源が純行政コストを毎年下回っている

■ 問題① 社会保障費の構造的増加:止める方法がない

深刻度:高 改善可能性:低(法制度上の制約)

移転費用は3年で1,584→1,728億円(+144億円・+9.1%)と一貫して増加しています。

なぜ止められないか

給付の種類増加理由
介護給付費75歳以上人口の増加(後期高齢者)
後期高齢者医療費医療費単価の上昇+高齢者数増加
障害福祉サービス費サービス種別の拡大・利用者増
保育給付費無償化拡大
生活保護費(医療扶助)単身高齢者の増加

直近2年平均(+72億円/年)のペースが続けば、R7年度に1,800億円超、R10年度前後に2,000億円に達する見込みです。経常費用4,000億円のうち50%近くが社会保障給付だけで消える構造になります。

さらに、受益者負担の割合が3.1%(政令市平均6.5%の半分)であることも問題です。施設コストの97%を税金で補填している状態は、社会保障費の増加と合わさって財政を圧迫し続けます。


■ 問題② インフラ老朽化:2030年代に更新の波が来る

深刻度:高 改善可能性:中(計画次第)

指標R4R5R6R5政令市平均
資産老朽化比率(%)61.263.164.366.7
市民1人あたり償却資産額(千円)738709691517

資産老朽化比率(64.3%)は「施設の経済的寿命の64.3%を使い切った」状態です。言い換えると、今持っている施設の3分の2が老朽化段階に入っていることを意味します。年に約1%ずつ上昇しており、今後10〜20年で更新が集中します。

市民1人あたり償却資産額が738→691千円と3年連続減少しているのは、新しい資産を作るスピードより古い資産が劣化するスピードが上回っているためです。資産ストックが実質的に縮小しています。

全体会計のインフラは13,071億円(R6)。水道管・下水道管(企業会計)の更新は料金値上げなしでは賄えません。全国で水道料金引き上げが相次いでいますが、新潟市でも避けられない局面が近づいています。


■ 問題③ 人口減少:インフラを使う人が減るのに維持費は変わらない

深刻度:高 改善可能性:低(全国競争)

年度市民1人あたり行政コストR5政令市平均
R4479千円
R5482千円470千円
R6512千円470千円(R5直近値)

なぜ1人あたりコストが上がるのか:学校・道路・消防署・水道管などのネットワーク型インフラは、使う人が半分になっても維持費はほぼ変わりません。人口が10%減ると、1人あたり負担は約11%増える構造です。

国立社会保障・人口問題研究所の推計では、新潟市の人口は2020年の789,275人から2040年には680,256人(▲13.8%)に減少する見込みです。この人口減少は、現在のコスト水準が続く限り1人あたり行政コストを押し上げ続けます。

特に深刻なのは農村部を抱える区です。

2020年人口2040年予測増減率
西蒲区54,546人39,417人▲27.7%
北区72,804人57,328人▲21.3%
南区43,437人34,251人▲21.1%
中央区180,345人168,038人▲6.8%

西蒲区・北区・南区は2040年までに5人に1人以上が減る見込みです。これらの地区にも道路・水道・学校などのインフラが存在しており、使用者が激減しても維持コストは発生し続けます。


■ 問題④ 純資産の継続的減少:収入が支出に追いついていない

深刻度:中 改善可能性:中(受益者負担と歳出改革次第)

年度純行政コスト財源差額(財源不足)
R43,705億円3,584億円▲121億円
R53,698億円3,601億円▲97億円
R63,899億円3,820億円▲79億円

毎年、純行政コストが財源(税収+補助金)を上回っています。差額は▲121→▲79億円と改善傾向にあり、これは比較的前向きな変化です。ただし黒字化には至っておらず、この差額分が純資産の取り崩しとして現れています。


8. 解決策の検討:できることとできないことを分ける

■ 解決策の現実性マトリックス

対策効果規模実現難易度タイムライン
受益者負担の引き上げ(使用料・保育料等)中(住民合意が必要)1〜3年
公共施設の集約・複合化・売却中〜大高(地域合意が必要)3〜10年
行政のDX・業務効率化小〜中3〜7年
水道・下水道料金の引き上げ大(企業会計)高(値上げへの抵抗)1〜5年
インフラのPPP/PFI・広域化高(合意形成・事業者調整)5〜15年
産業振興・企業誘致高(全国競争)10年以上
移住促進・人口維持高(全国競争)10年以上
社会保障費の削減大(必要)不可(法令・憲法上の制約)

■ 短期(1〜3年)でできること

受益者負担の適正化

現在3.1%の受益者負担割合を政令市平均(6.5%)に近づけるだけで、公共施設の使用料収入が2倍以上になる可能性があります。多くの施設で使用料が10年以上据え置かれており、物価上昇分の見直しは行政コスト抑制に直結します。ただし住民への説明・合意形成が必要です。

その他業務費用・物件費の精査

その他業務費用は3年で68→50億円と自然減していますが、外部委託の費用対効果の精査・デジタル化による印刷・郵送コスト削減で、さらなる削減余地があります。


■ 中期(3〜10年)でできること

公共施設マネジメント(財産経営推進計画)

市は「財産経営推進計画」に基づき、公共施設の集約・複合化・売却を進めています。学校の統廃合(すでに進行中)、老朽公民館の廃止・機能移転、庁舎の集約などが具体策です。維持管理コストの削減だけでなく、売却益を債務返済に充てることで純資産の改善にもつながります

水道・下水道の広域化と料金改定

全体会計の投資活動支出はR6に大幅拡大(前年比+222億円)しており、その多くが水道・下水道インフラの更新です。老朽化した管路更新には今後20〜30年にわたって多額の投資が必要で、現在の料金水準では回収できないことが明らかです。新潟県内複数市町村での水道事業広域化が検討されています。


■ 長期(10年以上)でないと変えられないこと

人口・産業構造

移住促進・企業誘致・産業振興はいずれも効果が出るまでに10年以上かかり、全国の自治体が同じ戦略を採る中での差別化は容易ではありません。現実的には「人口減少速度を緩める」程度の効果にとどまります。

社会保障費の構造

高齢化に伴う社会保障費は国の制度設計(介護保険・医療保険の給付範囲・自己負担割合)で決まっており、市単独では抜本的な削減はできません。国の制度改革を待つか、市独自の加算事業を精査するしかありません。


■ 現実的な見通し:「財政破綻なし、構造的悪化は続く」

急激な財政破綻のリスクは低いです。基礎的財政収支は3年連続黒字(54→125→80億円)で、借金を増やして借金を返す「財政破綻前夜」の状態ではありません。

ただし、このまま何もしなければ2030年代に以下の「3つの波」が同時に来るリスクがあります。

  • 波① インフラ更新コストの急増(2030〜2040年代)
  • 波② 団塊の世代の後期高齢者化による社会保障費のさらなる増加
  • 波③ 人口減少の加速(2040年に現在より▲13.8%)

本年度差額(財源不足分)は▲121→▲79億円と改善傾向にあります。この改善トレンドを継続しつつ、受益者負担の適正化と公共施設の集約を前倒しで進め、2030年代の3つの波を和らげることが現実的な戦略です。


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